垂壁のかなたへ Steve House






現在、世界最強と賞賛されているアルピニスト、スティーブハウスの「垂壁のかなたへ」を読了


 エヴェレストの一般ルートには登らない。8000m峰14座のピークハントもしない。より直線的で困難な未踏ルートを、少人数か単独ですばやく登るのが彼のスタイルだ。著者スティーヴ・ハウスは、北米とヒマラヤを中心に、アルパインスタイルで数々の先鋭的な登攀を成功させ、「世界最強のクライマー」として知られる。本書は、登山を始めるきっかけとなったスロヴェニア留学から現在に至るまでの、20年におよぶ登攀の記録である。
 「軽く速く」という信条のもと、装備と食料はぎりぎりまで切り詰める。K7(6934m)新ルートのソロ第二登のときはわずか3.5キロ、のちにピオレ・ドール賞を受賞したナンガ・パルバット(8126m)ルパール壁登攀では、二人で9キロの荷物しか持たなかった。
 アルパインクライミングの最先端を突っ走る世界的クライマーが、岩壁から靴を落とす、クレバスにはまるといったきわどい事故のほか、パートナーたちとの絆や、驚異的な記録の裏にある「生と死」を語り尽くす傑作。





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いつからだろうか、私は最小限であることについて強く惹かれるようになり、ごちゃごちゃしたりきらびやかに飾り立てられたものにはハリボテのような空虚を感じるようになった
物事は足してゆくより引いてゆく方がずっと難しくずっと美しいと気がついた
そういった美意識の延長線上のひとつとしても、身も心もギリギリまで削ぎ落し垂壁に立ちつづけるアルピニストを尊敬する
ただ彼らのミニマリズムとは、スタイリッシュだったりガラスケースに囲まれたような敷居の高いものではなく、寂しさや暗さ侘しさ貧しさのなかに常に寄り添っている気がする
様々なアルピニストの著書を読んでは、神様に選ばれたかのような才人達こそ高みに至るまでの壮絶な苦悩を経験していることを知る
彼らは絶望を繰り返した日々を赤裸々に綴るが、その先に辿り着いた成功に関しては至極謙虚であって、それにはまるで絵画にある空白の奥ゆかしさに似た美しさを感じざるを得ない

--私が最も手応えを感じたのは、つぎからつぎへものを削ぎ落していった日々、つまり、自分なりに要不要の概念を見直した時期だった
--忘れないでもらいたい
 物事がシンプルになればなっただけ、体験は豊かになる

本書でもスティーブのそういった強く美しいアルピニズムを知ることが出来、さらなる畏敬の念を抱くことになった
そして彼の山へ対する姿勢を通して、人生において何が大切なのか、何を護るべきなのかを、そっと語りかけられたような気がした

--クランポンを履いたパンク野朗だ!

私がアルピニストに惹かれる理由のうちのひとつがこれ
ツギハギだらけのウエアで反骨心むき出しのパンクス、
”喪われた岩壁”で感じた”白い暴動、デトロイトミュージック”


良書、ちょっと高いけれども是非読んでもらいたい