川崎 精雄






めじろが手のとどくほど近い枝に来て啼く。
私がその真似をすると、めじろが首をかしげる。
このような所に住めたら、ということは、若い私は決して考えはしない。
また考えるべきではあるまい。
けれども、もしも心の端に蘇るたびに、こうした所を訪うことが出来るならば、
人生のアルバムを、心地よい思い出で満たすことが出来るだろう。

-鹿島の初冬-






次に草むらに、仰向けになった。
ここでO君の感激は、頂点に達したようだ。
会津に生まれて東京に職を得ている彼は、
頭上に仰がれる星空の美しさに驚嘆し、
今まで星がこんなにも美しいものだとは見たこともなかったし、
考えもつかなかったという。
私は彼に、持参のサンドイッチの一片を領った。
それは家内が作ったありふれた品だが、O君はその健康の故もあって、非常においしく感じたらしい。
あとで貰ったその手紙には、ポロポロ涙が出そうだった星空の広さと、
高原の冷気に、氷のように冷えた一片のサンドイッチの味は、
生涯忘れ得ないものだ、と書いてあった。

-夜道-



「君のレコードを聴きに行くから」

-邂逅-