九重連山 大船山 朝駆け
ヘッドライトで照らされた白飛びの小さな足元だけを目で追い、展望のきかない暗い樹林帯を黙々淡々と登っている
進行方向は常に東を向いていて、まるで朝に会いに行っているかのようだと私はぼんやりとそう思った
高度を上げてゆくのに比例して空が白んできたけれども、 朝焼けの色を知るのは大船山の稜線の段原に出てからのこと
私はこの瞬間が一番好き
ガスにまかれてなんの眺望も無い残念な日もあるけれども、眠たい目をこすり、息を切らして標高をあげた先で、
世界を切りひらく紅い彩りが目に飛び込んできたときは、こころのなかで大輪の花が一気に咲いてゆくような素敵な気分になれる
それはプレゼントの箱をあけたときのアノ感じにも似ている
段原から道は南に折れ、私はトンネルふうのミヤマキリシマの群生をくぐり抜けてゆく
折重なる枝の網目からは東の空が見えた
しんしんと冷えている空気にさらされた枝には薄い氷がびっしりとついていて、私が通るたびにカランカランと透明な音をたてながら剥がれ落ちた
その透き通った音があまりに可愛くて何度か腕を伸ばしてわざと枝を揺らした
金属棒のキラキラした音の出る楽器、ツリーチャイム
あのなかを通ってるふうな気分だった
トンネルを抜けると、大船山の勇ましい山頂が目に飛び込んできた
西側には九重連山の嶺々が群れているけれども、大船山はそのなかで孤高の山頂としてそびえたっている
やっぱり大船山はトクベツにかっこいいなあと毎回この瞬間に思う
ペースの遅い私を待ってくれているTさんのヘッドライトの光が前方のちょっと先に見える
その背中をゆっくりと追った
山頂直下の岩場を登りきって頂上へたどり着き、五合目付近から先行してぐんぐんと登っていったイシカワさんと合流してひと声ふた声言葉を交わした
am6:40 大船山山頂
サコッシュに付けていた温度計はマイナス16度を表示していて、風は無いけれどもキンと冷えた空気がからだを刺すので、日の出を待つあいだに身震いを何度もした
山荘で入れてきたあつあつのチャイを飲むと、吐息が一層白くなり口元でまあるくひろがった
am7:00
東の空から飴色のつやつやした太陽が出てきて
私はオレンジ色っぽい暖かさを全身に受けとめ、
冷え切ったからだを包むじんわりとした熱をこころの底からありがたく感じた
日の出の瞬間、私は西側の空を見やる
朝日を浴びた稜線との境界線の空が横一直線の虹色に染まるその様子が好きなんだ
この淡いグラデーションにこころが揺さぶられる
2月某日
link:久住登山〜法華院温泉山荘泊〜2日目 6×6club(イシカワさん)