めぐみ 高木正勝


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高木正勝さんのエッセイ「こといづ」の出版記念のトーク&ミニライブが宮若市の田舎であったので友人らと出かけた。

もうずっと長いあいだ好きでいるのに、高木さんの演奏を聴くのは初めて。
築150年の古民家にたった50人のお客さん。日曜日の昼下がり、緊張感のないトークにコントラバスとのゆるいセッション。くつろいで聴いていくうちに、シキオリの空間にすっかり溶け込んでしまった。
遠く鳥の声、犬の声、だんだんと落ちてゆくひかり。抱え込む膝。

演奏会の最後は、コントラバス松永さんのリクエストでにっぽんの(きっと農村での)四季をたおやかに描いた「めぐみ」。高木さんのすっと空までまっすぐに伸びる凛とした生の歌声が響いた瞬間、ふわっと私の身体が浮かんで、衝撃的に涙がほろほろ出てきて止まらなくなった。
手ぶらで野山をかけて、思ったことを自由に口にして、無垢で素直で良い子だった、何も考えずに帰れる場所があったあの頃のこと、私が失くした懐かしさの輪郭を「めぐみ」がなぞっていくような気がした。
あたたかさがしくしく波立てる。

高木さんはあぐらを組んで大地を手のひらでたたくようにピアノを弾く。彼のうたは世界を救えるのだと信じれた。

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演奏会終了後、お客さんも半数以上帰っちゃたけども、どなたかのリクエストで突然始まるGirls。ほんの2メートル先で。

Girlsは、ほぼ黒鍵で形成される高木さんの代表曲のうちのひとつ。

原曲から遠く離れた指運びや熱量をもっても、やっぱりGirlsへはまっていくこの曲の懐の深さを、鍵盤のきしみも聴こえるほどの距離感で教えてもらえた。










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